土用の丑の日、なぜ「うなぎ」なの?
日本の暦では、一年を春・夏・秋・冬の4つに分け、さらにそれぞれを6つに分けた「二十四節気」として季節を表しています。また、同様に季節の変わりの目安となるものに「雑節(ざっせつ)」と呼ばれているものがあり、今でも行事などが行われています。「土用」とは、雑節の一つで、立春・立夏・立秋・立冬の前のおよそ18日間を指します。そのため、1年に4回の土用があるのですが、今日では土用といえば、立秋前の夏の土用を指す人が多く、この「土用の丑の日」にうなぎを食べる習慣が根付いています。なぜ、土用の丑の日にうなぎを食べるのが一般的になったのでしょうか?この由来に諸説ある中で、一番有力なのが、江戸時代中頃の蘭学者、平賀源内の宣伝文句のエピソードが元になったといわれています。
江戸時代、秋から冬が旬の、味がこってりしているうなぎの蒲焼きは、夏にはあまり売れませんでした。困ったうなぎ屋は平賀源内に相談したところ、「本日、土用の丑の日」という看板を出すことを勧めました。この見慣れない言葉に足を止めた客に、店の主人は源内直伝の文句を並べ宣伝すると、店は繁盛したそうです。他のうなぎ屋も真似るようになり、土用の丑の日にうなぎを食べる風習が定着していったのだそうです。江戸時代の平賀源内、マルチクリエーターな活躍で、歴史に残っています。
「土用」とは、季節の変わり目の期間
土用の起源は、古来中国から伝わる「陰陽五行思想」に由来します。陰陽五行思想とは「万物は木、火、土、金、水の5つの元素から成り立っている」という自然界の考え方をいいます。 世の中のすべてのものは水・木・火・土・金のどれかに分類され、さらに、これらを組み合わせることで、「相生(そうせい)」と「相克(そうこく)」の関係を説明しています。五行のバランスがとれた状態での「相手を生じる関係」を相生といい、「抑制する関係」を相剋という説明します。また、バランスの崩れた関係性をあらわす「相乗(そうじょう)」「相侮(そうぶ)」という状態があると説明されています。
季節においても、「木」は春、「火」は夏、「金」は秋、「水」は冬、というように「土」以外の元素が各季節に割り当てられています。土は五行の中で重要な位置づけであり、「万物は地中から生まれ、万物は土の中に滅びる」「土は万物の母といわれ、ものを生み出し、蓄える働きをします」「土は春の種まき(稼)と、秋の収穫(穡)の性質を表します」とされています。
東洋医学の中心となる伝統的な考え方は、紀元前1000年頃の中国で始まり、水・木・火・土・金の五元素で成り立つ自然界の図に基づく陰陽五行説の起源となりました。陰陽五行の関係図で、「陽」の概念の相生は「助けてくれる関係」を示し、「陰」の概念の相克は「コントロールする関係」を示しています。
相生関係の図は、木は火をおこし、火は土になり、土の中は金が含まれ、金の器は水を溜めることができます。相克関係の図は、木は土を耕し、土は水を止め、水は火を消し、火は金を溶かします。体の関係と五行学とは、このような人体の分類に応用して、健康分野に使うことができます。
世のすべてを5つに分ける考えの五行説は、春・夏・秋・冬の四季をも五行に割り振って、「春が木、夏が火、秋が金、冬は水」とし、余った土はすべての季節に存在するとする考えのもと、「季節の変わり目の期間」に割り当て、これを「土用」と呼びました。
季節の変わり目であるこの期間は”土の気が旺(さかん)になる”期間といわれており、元々は「土旺用事(どおうようじ)」と呼ばれていました。この「土旺用事」の旺と事が省略され、「土用」となったといわれています。
土用の期間の過ごし方
毎年、立春、立夏、立秋、立冬の約18日前の日を「土用入り」、最後の日を「土用明け」といい、土用の間は、土の気が盛んになるとして、動土(土を動かすこと)・穴掘り等の作業をしてはいけない時期とされています。
土用の期間中にしてはいけないこと
・土いじり、草むしり、畑やガーデニング、造園、地鎮祭、井戸掘りなどを含む穴掘りなどの行為。
・転職、就職、結婚、結納、開業、開店、新居購入など、大きな契約や新しく始めること。
・引越しや新居の購入。
土用というのは、季節の変わり目で体調を崩しやすい時期でもあります。土用のオススメの過ごし方は、日ごろの疲れを解消するタイミングと考えて、何もせずに自宅でゆっくりとすることです。昔の人の知恵と結びついた風習として、体調を崩しやすい時季であることを自覚して、ふだん以上に節制したり、重労働の農作業も休み、新しいことを始めるのもやめ、旬のおいしいものを食べ、ゆっくりと過ごしましょう、といわれています。
土用の期間に「やると良い」こと
縁起が良い食べ物
・春土用(4月下旬~5月上旬)
いわし、いくら、いか、いちご、いも、豆腐、白米、大根、かぶなど
・夏土用(7月下旬~8月上旬)
うなぎ、うどん、きゅうり、すいか、かぼちゃ、梅干しなど
・秋土用(10月下旬~11月上旬)
玉ねぎ、たこ、たけのこ、大根、青魚(さんま、さばなど)など
・冬土用(1月下旬~2月上旬)
ヒラメ、ヒラマサ、ひじき、トマト、りんご、パプリカなど
土用は季節の変わり目で、体調を崩しやすい時期でもあります。土用の作業は、季節の変わり目となり、一年通して休む事なく働く農家にとっては、せめてこういう機会を利用して体を休める事も必要という意味で、風習から発生した「言い伝え」でもあります。土用期間をうまく利用して、次の季節へ向けて充電できると良いですね。
暦を見る楽しさ
立春・立夏・立秋・立冬など「二十四節気(にじゅうしせっき)」は、農作業の目安にするために中国で作られた暦です。また「雑節(ざっせつ)」という暦は、中国の季節と少し違う日本の季節の変化をつかむための目安として日本で補助的に作られた日本独自の暦をいいます。
雑節は、二十四節気などでは読み取れない、もっと細やかな季節の変化を、日本の風土を交えて表したもので、古くから季節の変化を知らせる大切な役割を担ってきました。「土用」はその雑節と呼ばれる日本の四季の移り変わりをより的確につかむために設けられた暦日(こよみで定められた日)のことです。
現代では「太陽暦(たいようれき)(グレゴリオ暦)」が使われ、「太陰暦(たいいんれき)」は旧暦とされています。明治になるまで、月の満ち欠けで月日を定めていた旧暦を、太陽との季節のずれを調整した、太陽の動きで見る「太陰太陽暦」として長い間親しまれていました。
旧暦では、「立春」「雨水(うすい)」「啓蟄(けいちつ)」「春分」というように、一年が24の季節『二十四節気(にじゅうしせっき)』に分けられています。これは、昼と夜の長さが同じになる「春分」「秋分」のように太陽の巡りを基準に分けた太陽暦に付された日付なので、月の巡りを基準とする太陰暦(たいいんれき)とは日にちがずれ、旧暦では節供(せっく、節句とも)の日にちは毎年異なります。
さらに旧暦には、二十四節気(にじゅうしせっき)をより細かく分けた『七十二候(しちじゅうにこう)』があります。これを見ると、旧暦で暮らしていた当時の人びとが自然と親しんでいた姿を見ることができます。『旧暦カレンダー』を生活の場に置き、旧暦を意識して暮らすのもいいですよ。