6月を華やかに美しく、紫陽花(アジサイ)


梅雨の季節は日本の風物詩で、独特の魅力で美しさを感じさせてくれます。雨がもたらす恩恵は自然を豊かに、稲作をはじめとした農作物の生育には欠かせないものです。穀物や野菜が育つのに必要な雨は日本の食文化を支え、自然が生き生きとして美しい季節です。雨に濡れるアジサイの花の美しさも、日本の文化にも深く根付いている風景の一つです。雨が降り続き、厚い雲に隠れた太陽はなかなか顔を出さない、そんな陰鬱な暗い空の下でも、鮮やかな色彩の輝きを見せ、妖艶な花を咲かせるアジサイは梅雨の季節を楽しませてくれます。

アジサイを漢字で表すと「紫陽花」
アジサイを漢字で表すと「紫陽花」と書きます。アジサイとは読めなくても、なんとなくアジサイが連想できる上手い字を当てたものだと思います。このアジサイという名前は、「本物の藍で染めたような色の花がたくさん集まって咲く」という意味から、漢字の「集(アズ)真(サ)藍(アイ)」が語源だそうです。中国表記では唐の時代に、詩人「白居易(白楽天)」が命名しましたが、白居易が命名したのは別の花「ライラック(リラの花)」の名前だそうで、その「紫陽花」の名が日本に伝来した際に、日本で自生する「アジサイ」に「紫陽花」の名をつけてしまい、そのまま命名されたとのことです。
アジサイ(紫陽花、学名:Hydrangea macrophylla)は、アジサイ科アジサイ属の落葉低木の一種で、「アジサイ」の名はアジサイ属の植物の総称ですが、日本では「ホンアジサイ」の品種の一つ (和名:H. macrophylla f. macrophylla)と呼ばれています。原種は日本に自生するガクアジサイです。
江戸時代に長崎・出島のオランダ商館の医師として日本へやってきた、ドイツ生まれの医師であり博物学者のシーボルト(Philipp Franz Balthasar von Siebold (フィリップ・フランツ・バルタザール・フォン・シーボルト)は、日本人医師の育成をする傍ら、日本の風物や植物などを世界に広く紹介しまた。シーボルトは数ある植物の中でも日本の植物であるアジサイを愛したようで、著書『日本植物誌(フローラ・ヤポニカ)』には、アジサイを「Hydrangea otaksa(オタクサ)」と名づけています。これは彼の愛人だった長崎丸山の遊女「オタキさん」(本名楠本滝)の名前からつけられたといわれます。ただ、アジサイの学名はシーボルトが命名する以前に発表されていたので「オタクサ」の名前は認めらませんでした。

紫陽花は日本原産の花
アジサイ科アジサイ属のアジサイは、もともとは日本に自生する落葉低木で、品種は「ガクアジサイ」です。この、ガクアジサイが「ホンアジサイ」に改良されました。丸い形の中心部が「真花」と呼ばれる花で、周りの花びらのような「花序」の部分は、萼(ガク)が発達した「装飾花」です。 ただ、両性花は生殖能力のある雄しべと雌しべを持ち実を結ぶが、セイヨウアジサイなどの装飾花は大きな花びら(実)があっても、雄しべや雌しべが退化していて、実を結ぶことはありません。

ガクアジサイ
中心部にある小さなツボミのような部分が「真花」と呼ばれる花で、私たちが花びらだと思っている部分は、ガクが発達したもので「装飾花」と呼ばれています。

ホンアジサイ
「装飾花」が「真花」を覆うように集まったもので、「装飾花」をかき分けると真ん中に「真花」があります。


セイヨウアジサイ
特にヨーロッパで品種改良され、現在は一般的な紫陽花の品種となっています。細かい花が集まった「両性花」、周囲を囲うガクである「装飾花」が特徴です。

紫陽花の花言葉
アジサイの花言葉である 「移り気」は少しずつ色が変化することに由来したとされ、「七変化」といった別名もあります。 「辛抱強さ」は、アジサイの花期がとても長いことが由来です。 そのほか、「浮気」「無常」「元気な女性」「寛容」といった花言葉もあります。アジサイは花の色によって花言葉が異なり、誕生日や母の日の贈り物として贈ることの多い花なので、贈り物に選ぶときの参考にしましょう。

紫・青の紫陽花の花言葉
冷淡、無情、浮気、知的、神秘的、辛抱強い愛
紫は神秘的な色であることから、「知的」や「神秘的」といった花言葉

緑(アナベル)の花言葉
ひたむきな愛
色合いの面でも花言葉の面でも、お祝いごとにぴったりなお花です!

赤・ピンクの花言葉
元気な女性、強い愛情
ピンクや赤などと明るい色のアジサイは、ヨーロッパに分布。母の日などの贈り物として定番

白の紫陽花の花言葉
寛容、一途な愛情
どのような色にも染まらない白色の美しさから、懐の広さをイメージさせる花言葉

各地のアジサイ寺
梅雨の頃は気温の変化が激しい時期であるため、昔の日本では各地で流行病が伝染し、医療技術が未熟であったため、多くの人が命を落としました。アジサイの咲くその頃は、寺によっては死人に手向ける花として、アジサイは「死人の花」とも呼ばれていました。亡くなった方への弔いの意味を込めて、人々は梅雨に咲くアジサイの花をお寺の境内に植えたのだといわれています。
梅雨時の古寺に彩りを添えるため、観光の目玉にもなるところも多くなりました。こうして境内にアジサイの花を多く植えている寺院がアジサイ寺と呼ばれ、日本各地に点在します。風情あるお寺とアジサイを同時に楽しめます。
なぜアジサイの名所に寺が多いのか、それには立地との関係があります。古来、寺は修行の場だったので、神聖な山に建てられる事が多く、水に恵まれていることが条件です。直射日光が当たり過ぎない斜面、水はけのよい土地の寺は水に縁が深く、アジサイが育つのに適した場所でした。
アジサイに似た「アマチャ」の葉を発酵させて甘茶にし、釈迦の生誕を祝う仏教行事「灌仏会(かんぶつえ)」に用いるため、寺にアジサイが多いお寺にはアマチャの木が多いようです。また、山中の沢で見られるアジサイの一種のヤマアジサイも半日陰の湿度の高い場所を好んで生息しています。

アマチャ
ガクアジサイに似て、アジサイの変種です。この葉を発酵させて甘茶にして「灌仏会(かんぶつえ)」「花祭り」で親しまれます。薬効もあるといわれるが、有毒物質が含まれているので飲食できません。

ヤマアジサイ
アジサイ科アジサイ属の1種です。山中に自生することが多く、特に半日陰の湿り気のある沢沿い
生息するとから、サワアジサイとも呼ばれます。 ガクアジサイと比べ、花の色が多様です。

紫陽花は七変化、花の色の違い
アジサイの葉は大きく、多いため、鉢植えのアジサイは毎日の水やりが欠かせません。地植えであっても、空梅雨で地面が乾くと、花も葉も元気がなくなります。アジサイの英語名「ハイドランジア」Hydrangea は「水の器」という意味のギリシャ語で、アジサイは体内に水をたっぷり蓄えていることから名付けられました。アジサイは雨も日光も必要とするので、日陰では花つきが悪いです。よく日の当たるところで育てましょう。
アジサイには赤、青、紫などの色がありますが、この色のベースになるのは「アントシアニン」という色素です。 このアントシアニンは通常赤色ですが、土壌から溶け出してきたアルミニウムと反応すると、青色に変化します。 従って、アルミニウムをたくさん吸収したアジサイは青色に、しなかったものは赤色に、その中間が紫色になります。
アルミニウムが溶け出す量は、水の酸性度によって決まり、酸性だとよく溶けて、中性~アルカリ性だとあまり溶けません。従って、土が吸収した水が酸性だと青色に、中性だと紫色に、アルカリ性だと赤色になります。
他にも「赤紫」に近いアジサイは老木のアジサイで、「白」のアジサイはもともとアントシアニンを持っていないため色が変化しないアジサイとなります。
日本の街中でよく見かけるアジサイは青や紫が圧倒的に多いのは、火山土壌のせいであるため、酸性の土壌が圧倒的に多いからです。
寺に限らず、様々な場所でアジサイは見られます。公園や遊園地、鉄道の沿線にも名所はあります、しかし、寺のたたずまいや苔むした石段に咲くアジサイは特に魅力的です。アジサイは雨上がりのときが一番きれいだといわれています。アジサイは、枯れてしまうとあまり見た目が良くありません。また、次の年も良い花を咲かせるために、花が終わるとすぐ剪定を始めましょう。アジサイは飾りながら育てて楽しむだけでなく、色の変化、花言葉、ドライにするなど、様々な楽しみ方があるのです。