雨の一日、箱根登山鉄道を楽しむ

歴史と今が楽しめる、箱根
箱根が交通の要衝として登場するのは、中世の東海道「湯坂路(ゆさかみち)」が開かれてからです。古代では、駿河から相模への交通路はもっぱら足柄道による東海道でした。鎌倉時代になり、湯本から三島への湯坂道が通り、江戸時代には、湯本から畑宿を経て箱根に通ずる東海道が出来ました。徳川幕府は箱根を東海道の交通での自然の要塞として、芦ノ湖畔に関所を設けました。以後、箱根は関所を中心とした宿場町へと発展することになります。
箱根には箱根山の外輪山の中に、芦ノ湖をはじめ、いくつもの山や川の自然と、かつて箱根七湯として知られた温泉地があります。最も古い歴史を持つ温泉は、8世紀の開湯といわれます。江戸時代には東海道の頻繁な人々の往来により、源泉が次々に開発され、十七湯とも、二十湯とも称される全国的に有名な温泉場になりました。歴史ある温泉の魅力で、現在も大いに賑わっています。
現在では宿泊客も、温泉の利用客も多く、なにより、交通の便のよいことにあります。それは小田急での都心直結、箱根登山鉄道や箱根各エリアのバス乗り換え駅があり、どこへ行くにも便利という地理的条件をそなえているからです。箱根登山鉄道は、沿線のこれらの温泉を便利に繋いでいるのです。

箱根登山鉄道とアジサイの歩み
6月の梅雨入りが近くなり、アジサイの話題には、必ず、「あじさい列車」が登場します。テレビの映像でも、沿線のアジサイが雨にしっとりと濡れている傍を、あの真っ赤な電車が走り抜けていきます。「なんとお似合いなのでしょう」毎年感じています。
箱根登山鉄道の前身は1888年に設立された小田原馬車鉄道です。その後、鉄道事業の変遷があり、現在の箱根登山鉄道になりました。早川の谷川沿いを昔からの東海道が通ります。その山沿いに箱根登山鉄道の線路が敷かれています。急こう配の斜面では、線路際に盛り土が多くあり、法面(のりめん、切土や盛土により作られる人工的な斜面)が雨で流されやすく、土留めをする必要があります。そこで、アジサイを植えて、土の中に根を巡らせ、土の流出を防ぎました。アジサイに土留めの効果があったのです。『アジサイは浅根性の植物ですが、根の張り方に特徴があり、根が浅い代わりに、広い範囲で根を張りめぐらせ、土壌の中で根を広げ、近くの植木などに絡みつき根を張ります。』そして、花も楽しめることに気付き、アジサイの植栽が本格的になりました。
1975年、鉄道職員によるボランティア組織「沿線美化委員会」が発足、沿線に多くのアジサイが整備されると、「あじさい電車」で呼ばれるようになり、現在の規模の「あじさい電車」が運行されています。

登山鉄道ならではの、天下の嶮
「箱根の山は、天下の嶮(けん)」とも謳われる箱根山の急勾配を走る箱根登山鉄道は、鉄道線と鋼索線(ケーブルカー)からなる鉄道です。鉄道線は、海抜26mの小田原駅から海抜553mの強羅駅までの延長 15.0km、標高差 527mを約 55分で駆け登ります。最大勾配 80 ‰(パーミル、1000分の1を1とする単位(千分率))の単線で、途中には13のトンネルと53の橋(暗渠等含む)があります。
登山鉄道の大きな特徴の1つは、急勾配への対応です。箱根湯本~強羅間のうち約半分が80‰という急勾配を登る鉄道は他にありません。この対応には、スイッチバックのための3つの施設と、4 つの制動装置、電気ブレーキ・空気ブレーキ・手動ブレーキ・マグネットブレーキが採用されました。スイッチバックとは、Z字の如くジクザクに敷設された線路を、前進後退を繰り返しながら登坂することで、限られた用地での有効な方法です。4つもの制動装置の採用は、万が一の車両の暴走を防ぐための安全に対する十分な対策になりました。
2つめの特徴は、急カーブへの対応です。カーブでの外側レールの磨耗防止のため、散水して、円滑な運行を図るものでした。また、車両長も約14mと路面電車なみに短く、厳しい曲線半径に対応したものでした。
箱根登山鉄道は幾多の自然災害に対して補修と復旧を繰り返し、経営環境の変化など多くの困難を乗越えてきた日本で唯一の登山鉄道です。登山鉄道、ケーブルカー、ロープウェイ、観光船、バスなど、多数の交通機関で箱根が周遊できる「箱根ゴールデンコース」と呼ばれるルートが確立され、登山鉄道はその一翼を担い、観光の目玉の一つともなっています。

あじさい電車、雨の車窓
<まだ未定ですが、今年も同じ「夜のあじさい号」の運行かな。>
箱根登山鉄道は、沿線沿いにアジサイが咲き誇ることから「あじさい電車」と呼ばれるようになりました。車内から見るアジサイは、しっとりと雨に濡れていた方が情緒があって美しいといわれます。車窓越しに見えるアジサイは、手が届くほどに近くに見え、迫力もあります。沿線沿いのアジサイの株の数は1万株以上ともいわれ、大きさも色も形も様々です。
標高の低い箱根湯本から、標高550mの強羅まで、約40分で走るあじさい電車ですが、沿線の高低差のため、アジサイの咲く時期が異なります。ですので、アジサイの見頃は6月中旬から7月中旬と、長い期間楽しむことができます。しかも、ちょうど梅雨どきで、車窓から雨にしっとり濡れたアジサイを満喫できます。
箱根湯本から強羅までのあじさい電車の時刻表は、1時間4本程度の間隔で運転されています。朝5時過ぎが始発、夜23時前が終電になります。夜間は、期間限定で完全予約制の「夜のあじさい号」(途中駅停車なしの直通運転)が臨時運行されます。アジサイのビュースポットで停車があり、写真撮影やアジサイ鑑賞ができます。人気があるため、チケットが売り切れる前に、往復セット購入など、上手に入手してください。

箱根フリーパスで周遊
<まだ未定ですが、今年も同じ「夜のあじさい号」の運行かな。>
富士箱根伊豆国立公園の中央にあたる箱根は、自然に恵まれた観光地として発展してきました。首都圏からも近く、鉄道、道路の交通の便が良いので、行楽シーズンは訪れる人も多く、たいへん込みます。自動車道路は高速道路とも直結し、充実しているのですが、多く訪れる観光地のほとんどは一般道を使うため、渋滞が起こり、バスの便も同様に、到着時間も読めない恐れもあります。そんな時、込み合って行列しても、やはり鉄道利用は確実です。ですので、とりあえず箱根一周を目指すのであれば、「箱根フリーパス」での周遊がお勧めです。
箱根フリーパス」は小田急線の全駅で購入することができ、2日間・3日間有効の2種類があります。このフリーパスでは、箱根登山鉄道、箱根登山ケーブルカー、箱根ロープウェイ、箱根海賊船、箱根登山バス(指定区間)、小田急ハイウェイバス(指定区間)、東海バス(指定区間)が乗り降り自由で、約50の施設で入場料などの割引があったり、お得にもなります。
箱根登山鉄道では箱根湯本駅から強羅駅間は乗り降り自由の周遊券なので、昼間のあじさい電車に乗車した後、夜間に再び、予約チケットで「夜のあじさい号」を楽しめます。2日間でも、3日間でも、あじさい電車を満喫しましょう。