雨の風景の美しさ
6月の空はどんよりとした雲に覆われ、蒸し暑く、うっとうしい季節と感じてしまいます。雨の日が続けば不快指数も上昇し、気分も滅入ってしまいます。でも、傘をさして歩む足を止めた先に見える樹々は、雨に打たれた木の葉がしっとりと、より鮮やかな緑に輝いています。春から夏への移り変わりを感じさせる季節を梅雨(つゆ)というのは、雨で木の葉に露(つゆ)がたくさん落ちる姿から、こう呼ばれるようになったのかもしれません。
田植えが終わり、たっぷりと水を湛えた田んぼは、整然と並ぶ苗が風に揺れています。山々には雫をたっぷり含んだ木々の緑が、キラキラと美しく輝きます。雨があるからこそ、日本の風土が育まれ、人々の生活を豊かにし、古くからのたゆむことのない持続があるのです。そんな思いがあれば、6月の雨の季節も、少し明るい季節に感じられるでしょう。
日本の暦の「二十四節気」にある、「そろそろ梅雨入り?」間近となる頃の「芒種(ぼうしゅ)」(新暦6月5日~6月20日頃)は、季節の初夏から真夏への切り替わりを示すものです。大麦や小麦などの種の先端に、トゲの細長い突起物の「芒(のぎ)」があるイネ科の穀物の、種をまく季節を迎えることで、この時期、種まき、田植えが始まります。
6月の雨を「五月雨」という
「五月雨(さみだれ)」の、「さ」は旧暦五月の「皐月(さつき)」から、時期的に早く若々しいさまをいい、また五月を意味しています。五月は「若々しい月」から「さつき」といい、「さみだれ」は「五月(さ)」の「水垂れ(みだれ)」といわれ(諸説あり)ています。五月雨は新暦の6月の梅雨の時期の雨を指しているのですが、旧暦では五月が梅雨の時期なので「五月雨」と呼ばれるようになりました。
ちなみに、「五月晴れ」も、「梅雨の晴れ間」や「梅雨の合間の晴天」のことで、梅雨入り前の5月頃のすがすがしい陽気のことを指すのではなく、梅雨の中休みを意味する言葉で、五月晴れも梅雨の時期の言葉なのです。ところが、時がたつにつれて、誤って「新暦の5月の晴れ」の意味でも使われるようになり、この誤用が定着してしまいました。
「五月晴れ」について、主な国語辞書も「1.さみだれの晴れ間。梅雨の晴れ間。2.5月の空の晴れわたること」(広辞苑)や、「1.五月雨(さみだれ)の晴れ間。つゆばれ。2.5月のさわやかに晴れわたった空。さつきぞら」(日本国語大辞典・小学館)などと、新旧両方の意味を記述しています。ただ、俳句の季語としては、もとの意味で使われることが多く、「新暦5月の快晴を五月晴れというのは、誤用」と明記してある歳時記もあります。
入梅とは、梅雨入りとは
「水無月(みなづき)」は旧暦に使われていた和風月名で、現在の新暦では6月を示します。和風月名はその月を象徴しているものが多く風情を感じさせてくれますが、6月は雨が多く、梅雨なのに「水が無い」と書く語源や由来は何なのでしょうか。「水無月」の由来は諸説あって、水が「無い」わけではなく「水の月」であるとか、田んぼに水を入れることを「水月」といったことの説などがあります。また一方では暑さで水が涸れるところから「水無月」と呼ばれており、これは旧暦の六月は新暦の6月下旬から8月上旬であり、太陽が照り付ける暑い時期に当たり、水不足を起こすことから「水無月」となった説もあります。
梅雨・雨季といった雨の時期は、日本ばかりではなく世界中にあります。雨季とは一年の降水量がいちばん多い時期をいい、梅雨は日本以外にも、中国南部や朝鮮半島南部などの地域にあります。雨季として梅雨があるのはインドネシアや南アフリカで、日本でも6月以外に、9月に秋雨期という、雨季があります。
日本では、入梅は暦により、太陽黄経が80度になったときと明確に決められているため、事前に正確な日を割り出せます。一方、梅雨入りとは、天気予報に基づき、気象庁が「梅雨入り宣言」するもので、今後、雨もしくは曇りの日が続くと予想される時期になります。もともとの定義が明確ではなく、また予報に基づくために、後になってから変更されることもあります。梅雨入りの時期は年によって4月下旬から6月上旬ごろと幅が広く、また地域によっても変わるため、梅雨入りと入梅が同じ日になるとは限りません。
「二十四節気」は季節を表す目印
暦の入梅の日から梅雨が始まるわけではなく、およそこのころから雨期に入ることを農家に注意を促すために記載されます。梅雨の明けるのを出梅というが、暦には記載されません。
入梅とは雑節のひとつで、季節を表す目印となる日のことで、入梅以外には、節分、彼岸、社日、八十八夜、半夏生、土用、二百十日、二百二十日があります。
昔の暦は、一年を24の節気に分けて「二十四節気」と呼び、ひとつの節気は約15日で、立春、春分、立夏、夏至、立秋、秋分、立冬、冬至など、しばしば使われる季節区分から成り立ちます。さらに、二十四節気をそれぞれ三つの候(諸侯、次候、末候)に分け、各候5日間の期間を「七十二候」といいます。
雑節でもあり、半夏(烏柄杓、カラスビシャク)という薬草が生える頃の、七十二候でもある半夏生(はんげしょう)は、二十四節気の夏至の末候で、次は二十四節気の小暑が始まります。
太陽黄経80度に達した日が「入梅(にゅうばい)」となり、日本では、毎年6月11日頃になります。節分や八十八夜などと同じく「雑節」のひとつです。この日は立春から数えて135日目にあります。暦の上で梅雨に入る最初の日となり、この日から約30日間が梅雨の期間で、「出梅(しゅつばい)」とは「小暑の後の最初の壬の日」と言われる太陽黄経110度程の頃で、7月13日頃になります。
梅雨に「梅」の字が使われるのは
梅雨の語源のはいくつかの説があります。
「梅の実が熟す頃に降る雨」という意味で、中国の長江流域では「梅雨(ばいう)」と呼んでいたという説。
「黴(かび)が生えやすい時期の雨」という意味で、「黴雨(ばいう)」と呼んでいたが、カビでは語感が良くないので、同じ読みで季節に合った「梅」の字を使い「梅雨」となったという説。
中国で生まれた言葉「梅雨」は、江戸時代に日本に伝わり、その頃から、日本でも「梅雨(つゆ)」と呼ばれるようになりました。
それでも、梅雨という言葉の由来は、正確には分かってないが、やはり、梅の実が熟す時期の雨という意味から、梅雨となったのでしょう。暦は農業と関係のある言葉が多く記載されています。
また、カビの生えやすい時期ということもあり、「黴(カビ)」の字は「バイ」とも読むため、「梅」の字をあてたのでしょうか。実際、入梅の頃はカビの生えやすい時期であることには注意すべきです。
「梅干しの七徳」といわれる効用
梅は中国が原産で、長江中流、湖北省の山岳部や四川省だといわれます。 中国では3000年以上も前から、燻製(くんせい)にした青梅を薬用として使用していました。梅の実を、かごに入れ、竃戸(かまど)の煙で黒くいぶし、乾燥させて作ります。色が黒く香気があり、カラス(烏)のように黒い色から「烏梅(うばい)」と名付けられた生薬は、熱冷まし、下痢止め、食物や薬物の解毒、はれものなどの手当に用いられました。
約1500年前、大陸文化とともに遣唐使が中国から持ち帰り、漢方薬「烏梅」が日本に渡来しました。こうした梅の効用とともに、最古の和歌集「万葉集」にも梅の花が詠まれています。梅は、早春にいち早く花を開き、色・形・芳香は観賞用として好まれ、このことから「松竹梅」として、おめでたい木のひとつとされてきました。
梅は果実として生食されることはなく、身体に良い食品として加工し利用されて、梅干しは平安時代中頃には登場し、人々のあいだで薬用として用いられていました。武家社会では梅干は食欲亢進剤として用いられました。戦の出陣の時には縁起物として食べられ、さらに兵糧食として用いられ、「日持ちが良い」「のどの渇きをいやす」「疲労回復」「水あたり」などの殺菌や整腸剤として重宝にされてきました。栄養を手早く摂取でき携帯しやすいことや、保存性、手に入りやすさや作りやすさなどから、梅の木が全国に広がったきっかけとなりました。江戸時代後半には「梅干しの七徳」といわれる効用が紹介されています。
季節の移ろいを楽しみたい
梅雨の季節がやってきます。ただでさえ、長雨により家も外もジメジメと湿気が気になる季節になります。それでも、日々の暮らしを送るには、四季の移ろいも含め心地よく過ごせる方法を見つけ、楽しみたいものです。
梅雨(つゆ)とは、晩春から夏にかけて雨や曇りの日が多く現れる気象現象で、また、その期間をさします。晩春から夏頃には、オホーツク海高気圧と太平洋高気圧の間に梅雨前線ができます。
梅雨前線の生成には、ヒマラヤ山脈による偏西風の蛇行が関係しています。蛇行した偏西風が日本付近で合流する事と、偏西風の蛇行により、オホーツク海高気圧を作る事に関係してきます。
太平洋高気圧の勢力が増すと梅雨前線も北上していき、やがて消滅、梅雨明けとなります。梅雨前線が北海道付近まで北上する事はほとんどなく、北海道では梅雨がないのです。
梅雨入り、梅雨明けともに全国10箇所の地方予報中枢官署(気象台)から発表されます。
日本の四季はそれぞれ独特の魅力がありますが、梅雨は日本の風物詩として魅了しています。梅雨は、湿気とともにやってくる緑の新芽や、鮮やかな紫陽花が美しい風景を作り出しています。どんよりとした雲に覆われ、雨が降ることが多い梅雨は、多くの自然に恵みを与え、日本の文化を育んでいます。梅雨の恵みを受けた豊かな収穫が、日本の食文化を支えています。
梅雨の時期は、外出するより家で過ごす時間が増え、雨の日に読書や映画鑑賞、趣味の時間を費やすことは心身のリラックスに繋がり、楽しむ人が多くいるようです。
梅雨は、様々な面で日本の文化や風物詩に関わり、その雨がもたらす恵みや風情を楽しむことで、梅雨もまた日本の四季の中で独自の魅力を持っていることがわかります。梅雨の季節を過ごすうちに、日本の文化や風物詩に触れ、梅雨の美しさを感じることで、新たな発見や魅力が見つかることでしょう。